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新潟地方裁判所長岡支部 昭和38年(わ)12号 判決 1963年5月17日

被告人 新沢久男

昭一六・一・二五生 工員

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数中二〇日を右刑に算入する。

押収してある小刀一本(昭和三八年押第七号の一)を没収する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となる事実)

被告人は中学生当時からの知友である会田義明(当二二年)と酒の上の些細なことで仲違いしていたものであるが、昭和三八年一月二八日早朝から二、三回にわたつて右会田から仲違いの決着をつけようとの申出を受け、これに応ずべく刃渡り約一三、八糎の小刀一本(昭和三八年押第七号の一)を携え、途中右会田に逢つてこれと同道し、同日午後七時三〇分頃、新瀉県柏崎市大字砂浜一、一一四番地柏崎タクシー修理工場前道路附近にいたり互に向合つたところ、右会田がいきなり殴りかかつてきたのでこれに憤激し、右小刀で刺せば或は同人を死に至らしめるかも知れないと認識しながら、敢えて所携の右小刀で同人の腹部を一回突刺したが、同人に対し全治約一ヶ月間を要する腸管及び腸間膜損傷を伴う腹部刺創を与えたに止り、同人を殺害するに至らなかつたものである。

(証拠の標目)(略)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件は被告人が自らの意思で攻撃を中止したため未遂に終つたもので所謂中止未遂である旨の主張をするので検討する。

被告人は会田の腹部を一回突刺しただけでその後は攻撃を加えていないが、この突刺した行為によつて本件の実行々為は既に終了したと考えるべきであるから本件は所謂実行未遂であるところ、実行未遂の場合で中止未遂が認められるためには被告人が単にその後の行為を中止して不作為の態度に出ることのみでは足らず、結果の発生を防止するための作為が必要である。そして、その防止行為は被告人自らこれをなすか或は被告人自らこれをなしたと同視できる程度のものであることを要する。

而して、被告人は本件現場附近から、新花町の飲食店「ゆかり」まで会田を背負つて行つたものであるが、これは主として田村哲雄の指示によるものであり、途中会田の傷口をタオルで押えさせたり、飲食店「ゆかり」で早川栄に医者を呼ぶよう依頼したりしたのは専ら田村哲雄がこれをなしたものであつて、更に医者の手当が功を奏したため結果の発生を防止することができたとみるべきである。その間の被告人の行動を観察するに、本件結果の発生が被告人自らの又はこれと同視すべき程度の行為によつて防止されたものと認めることはできないから、本件が中止未遂であると言うことはできない。

従つて弁護人の右主張は理由がないからこれを採用しない。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示行為は刑法第二〇三条第一九九条に該当するので所定刑中有期懲役刑を選択し、同法第四三条本文第六八条第三号により未遂減軽をなした刑期範囲内で被告人を懲役二年に処し、同法第二一条に則り未決勾留日数中二〇日を右刑に算入し、押収してある小刀一本(昭和三八年押第七号の一)は本件犯罪行為に供したもので、被告人以外の者に属さないものであるから同法第一九条によりこれを没収し、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して全部被告人の負担とする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 豊島正巳 正木宏 石田実秀)

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